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緊急電話があってから、もうすぐ24時間。

とある年の父の日に、パタゴニアの
赤いニットのベストをプレゼントした。
父はたいそう気に入ってくれ、季節になると毎日のように着ていたらしい。
「サイズもいいし、スマホが胸ポケットにすっぽり収まるのがいい」
と先日も何度も言ってくれた。
そんなに感動してくれなくても…と少し戸惑ったんだ、私は。

でも、後で考えると、これは大腸癌手術の少し前のことであり、家族は医者を信頼して少しも心配していなかったけれど、父はもしかしたら、万が一の事態を私たちよりかは覚悟していて、もう言えないかもしれないから今しっかりとお礼を言っておこうと思ったのではないかと思った。

そして、父の勘は当たってしまった。

直腸に出来た癌を切除し、縫合したところがつくまで、仮の人工肛門をへそのところに作ったが、人工肛門と皮膚の間に膿が溜まって腸閉塞を起こし、それが原因かは断定は出来ないが、菌が血管を伝い肝臓機能を著しく低下させ、高熱が出て、肺炎を併発し、挙句腎臓機能も低下させ、結果、敗血症で、あっけなく、それはそれはあっけなく、死んでしまった。

バスに乗って入院しに来たんだよ。

「人工肛門を医者にぎゅうぎゅう押されて声が出るほど痛かった」と話していたんだよ。

肝臓が弱ってるから薬も使えず、血液製剤を投与するも、大腸からジワジワと出血をし、内視鏡で焼いたとて、なんの、なんの効果も進展も回復もなく、意識も戻らず、恐らく自分の状況にすら気付かず、父は死んでしまった。

「こんなケースは初めてだ」医者は確かに言った。

死亡診断書には病理解剖を依頼する欄があった。
家族としては解剖してもらいたくないけど、もし次、こんな患者がいた時の為、勉強の為に解剖してもらいたいと言った。言うだけ言ってやろうと思った。こんな話を聞くのも医者の仕事だろ。

父は、あくまでも優しい。
手術当日も、こっちの心配をよそに微笑んでいた。
すごく、さっぱりした笑顔だった。
それは、棺におさまった時も、変わらなかった。

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